エチオピアがわかる本:約束の旅路

2020年11月20日

かつて「モーゼ作戦」というものがありました。
この作戦は、エチオピアに飢饉が起きた1984年から翌年にかけて、イスラエルがエチオピア系のユダヤ人(ファラシャ)を極秘に飛行機でイスラエルに「救出」した作戦のこと。
主人公は、このモーセ作戦によってエチオピアからイスラエルに移民としてやってきた少年。
この少年が、イスラエルでどのように生きたのかが描かれた物語です。

ただ、問題は、イスラエルにやってきた少年は、ユダヤ人ではなかったということです。
飢餓に苦しむエチオピアから、愛する息子を助け出すために、母親が幼い息子にユダヤ人になって、救われなさい、と息子を突き放すのです。

ファラシャであると偽ってイスラエルにやってきた主人公は、苦しみます。
ただただ単純に命を大切にして生きているだけなのに、彼は「罪」を背負い生きていくのです。
その罪というのは、母親を見捨てて、自分だけ助かってしまったという罪。
嘘をついてまで、自分の国を見捨てた罪。
そして、ユダヤ人の中でユダヤ人であると偽りながら生きているという罪。

なぜ、純粋に生きようとしているのにもかかわらず、こんなに罪の意識を持たなければいけないのか、と悲しくなってしまいます。

エチオピアに関する本ではありますが、エチオピアを理解するというよりもイスラエルをよりよく理解できる本でした。
あとがきにも書かれている通り、メディアなどで報道されているようなイスラエルとは違った、一枚岩ではないイスラエルをこの小説を通じて感じることができます。
私自身、イスラエル人と接したことがあり、彼は「我々の政府は本当にバカでしょうがない。すべてがポリティクスでポリティクスがすべてを狂わしている」とそのイスラエル人は話してくれた。その時、イスラエルにもいろんな人がいるんだなと思わされたのですが、この小説を読んで、改めてイスラエルに対する偏見を打ち破ることができました。

ちなみに主人公はユダヤ人の彼女と母親を探し出すということを約束し、最後は母親との再会を果たします。
それが、この小説のタイトル「約束の旅路」です。

この小説はエチオピアとイスラエルの関係、単なる政治的関係でなく、人と人の関係を理解する上で大変参考になる小説でした。
小説なので、とても読みやすいので、少しでもモーセ作戦、またはエチオピア、イスラエルのことを知りたいと思うのであれば、入門書として最適だと思います。

この小説は映画にもなっています。

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