エチオピア滞在記(2003年10月3日):エチオピア知ってる人と知らない人
旅立ちの前日ワクワク準備して当日の朝つかれておっくう
伊瀬義治
2003年10月3日。
はじめてエチオピアに旅たった。
前日はなんだかんだの準備でバタバタし、結局、眠れたのは3時間。
4:00に起床し、シャワーを浴びて、着替えて、準備完了。
すでに準備ができていたスーツケースや荷物をウトウトしながら眺め、本当にこの荷物で大丈夫なのだろうか、なぜこんなことになってしまったのかと考える。
本当は小さいスーツケースとバックパックで行きたかった。
しかし、大学院1年目のはじめてのエチオピア行きは試練なのか何かと荷物が多くなる。
大学院の先輩や先生たちにエチオピアに届けて欲しい荷物をあずけられるからだ。
小さめのスーツケース、リュックサック、ビジネスバッグ、ウエストポーチと荷物が4つにもなってしまった。
エチオピアで機敏に動けるのだろうかと不安になる。
ふと、携帯電話がなりビクッとする。
頼んでおいたタクシー会社の運転手から「今、到着しました」という電話。
京都でもかなりサービスが行き届いていると評判の高いMKタクシー。
約束の時間の5分前きっちりに到着。
MKタクシーというのは京都の老舗のタクシー会社。
南タクシーと桂タクシーが合併してMKタクシーとなったと以前MKタクシーの運転手にきいたことがある。
お客様を乗せる時は必ず、運転手が外に出て、手でドアを開ける。
降りる時も運転手が必ず降りて、左側の後部座席の扉まで回り込んでドアを外から開けてくれる。
雨の日は傘をさしかけてもくれる。
貧相な学生に対してもサービスの質は変わらないのが素晴らしい。
安いアパートの2階に住む私は、バックパックを背負い、重たいスーツケースを狭い階段の手すりに当てながら階段を降りる。
その様子を見かねた運転手は「お持ちします」と手伝ってくれた。
10月上旬の肌寒い朝。
タクシーに乗り込んだときには、じんわりと汗をかいていた。
京都のタクシーの運転手はよくしゃべる。
「どこに行くの?」
「エチオピアです」
「ほー。あのエチオピア。シバの女王の国やな」。
タクシーの運転手の口から「シバの女王」という言葉が出てくるのにはびっくり。
私でさえ、シバの女王を知ったのは大学院に入ってからだ。
ちなみにシバの女王というのは古代エチオピアの女王のこと。
彼女がソロモン王に会いにいった時の様子が旧約聖書に記されている。
「エチオピアの女王」と書いてしまったものの、旧約聖書には「シバ国の女王」と書いてある。
シバ国がどこにあるのかは記されてはいない。
あとから、あらゆる文書に残された情報がつなぎ合わせれて、シバ国はイエメン、エリトリア、エチオピアのあたりにあった国だろうということに今はなっている。
シバの女王がソロモン王に会って帰国するときに、家来がモーゼの十戒を収めた棺をエチオピアに持ち出したという伝説は有名だ。
タクシーの運転手の話はまだまだ続く。
「ま、でも、私の時代は裸足のアベベやったかな。哲学者のように、何か考えごとをするかのように走るアベベが印象的やったな」と。
タクシー会社に「京都駅まで行って欲しい」と伝えただけなので、私が空港に行くという情報さえタクシー会社は持ち合わせていない。
運転手が予習をしてきたわけではなく、本当にエチオピアのことを知っている運転手なのだ。
大学院の入学式の二日前に私は京都に到着した。
そのときに乗ったタクシーの運転手はアフリカを一つの国だと思っていた。
「アフリカ研究をするんです」
と伝えると、
「アフリカってまた役に立たないことを勉強するんだね。アフリカの首都はケニアだっけ?」
いやいや、アフリカを一つの国だと思っている人に「役にたたないことを勉強するんだね」なんて言われたくないな、と思ったのをしっかりと覚えている。
そして、これが日本の現実なんだな、と寂しくなったりもした。
「エチオピア」というと、「知ってる」と言ってくれる人は多い。
その次の言葉はだいたい「コーヒーの国だよね」となる。
ここまではいい。
しかし、次の言葉は「ブラジルの横だっけ?あれ、南米だよね?だって、コーヒーは南米だよね?」という会話は意外と多い。
なんとなく「エチオピア」という国の名前は知っているけど、本当は全然知らない人ばかり。
という私も、正直なところ、エチオピアの正確な位置を知ったのは大学院に進学するための院試のときかもしれない。
あー、やっぱりエチオピアってみんな知らないなーとショックを受けるものの、そこでよくよく考えてみる。
おそらく、タイがどこにあるのか、クロアチアがどこにあるのか、もしかしたらドイツがどこにあるのか世界地図で指をさせる人はどれくらいいることだろう。
日本人が世界地図でちゃんと場所を示すことができるのは、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアくらいなのかもしれない。
どこにあるのかさえあまり知られていないエチオピア。
さて、私はエチオピアを知っている人になることができるのだろうか。
一抹の不安を抱えながらタクシーのシートにもたれかかり目を閉じた。
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